旅行記(5月7日)

 ジョージは自分のことをジョージと名乗っているけれど本当はホルヘ=サンチェスという名前のコロンビア人で、彼と僕とが知り合いになったのはソウルで同じ宿に泊まっていることも大きな理由としてあるけれどもそれだけではお互い親しくなるには十分でなく、僕らが知己になったのは、やはり同じ宿に一日だけ宿泊したサウスカロライナ州出身で韓国の利川で英語教師をしているアメリカ黒人のジェイソンと仲良くなったことが一番大きな理由としてあるのだと思う。出会った日の夜、僕ら三人は夜風の気持ちい庭に出て、ビールを飲みながら長い間話をした。といっても、英語の苦手な僕は聞き役になることが多く、話していることもディテールがわからないことが多かったが、それは僕にとってあまり問題ではなかった。とても気持ち良い夜だったのだ。
 そんなわけで、僕が大連の町にはじめて降り立ったとき、僕の横にはジョージがいた。そんなわけで、というのも変で、要するにたまたま同じ船に乗ることになったので、宿から一緒に行動してきただけなのだけれど。彼は亜麻色の髪と大きな鼻を持ち、思慮深げに話すその仕方が印象的な人間で、なによりも良いやつだった。大連の右も左もわからない僕のために宿を紹介してくれ、中国語で値段の交渉なんかもしてくれた。宿を出たあともお金を下ろせるATMを一緒に探してくれ(日曜で銀行が使えなかった)、飲み物までおごってくれた。感謝の念に耐えない。
 飯でもおごりたいと思って誘ったが、彼はおなかが減っていないからといって、そこでお別れとなった。幾つか言葉を交わし、ハイさようなら。あっけないものだ。しかし、旅の別れというものはそういうものなのだろう。
 台湾風の牛肉麺なるものを食したあと、大連の町を散策。大連の街は面白い。高層ビルや真新しいデパート、多くのビルの建設現場、植民地時代から残る建築物、ウイグル人が経営するレストラン、雑然とした小さな市場、真新しい市場、それらがそれほど大きくない空間に秩序なく存在している。変貌しているのだろう。歩いているだけでも面白い。
 ジョージにも薦められた労働公園に行くと名犬品評会みたいのをやっていて、それも面白かった。池の上に特設のステージを作ってそこでやっていて、周りには多くの家族づれなんかが見物しているのだけど、なんていうか、締りみたいなものがなくてすべて物憂げだった。ステージ上の犬は糞を垂れるし、観客の中にも瀕死の金魚を釣ろうと糸を垂れているのがいるし、横では年寄りたちがトランプに熱を上げているし、陽は暑いし、統一感なんてものはなかった。それがとても滑稽で、笑った。
 公園を出てからも街をブラブラし、大連駅に向かった。大連駅は大変混雑している。驚いたのは構内に入るために荷物検査があるということで、しかも簡単に中身を確認するというようなものではなくて、Ⅹ線を通さなければいけない。構内は外観に比べてとてもきれいだった。
 入ってきたのとは反対口に駅を抜けた。道路を渡ると地下に商店街みたいのがあって、そこでかねてから探している目覚まし時計を物色することにした。「日用雑貨」(だっけ?)のかたまっているあたりでそれらしいのを見つけたので、店員のおばちゃんと話そうとしたんだけど、なかなか話が通じなくて愛想笑いをしていると、隣の店から片言の日本語を話すお姉さんが呼ばれてやってきた。彼女の日本語は本当に片言なのだけれど、それでも筆談を駆使したりしてだいぶコミュニケーションがスムーズになり、ちゃっちい時計を18元(約250円)で買うことにした。そこからお姉さんとの間で話が転がり、そこで張さんという名前だというのも知ったんだけど、なぜか晩飯を一緒に食べることになった。意味がわからなくて、面白い。
 晩飯は日本のおでんをゴマだれとラー油につけて食べるようなもので、「マーラー○○」というものを食した。いや、名前をよく覚えていないんです。ごめんなさい。
 飯食ったあとは人民広場まで散歩して、また駅に帰ってきてそこで別れた。いろいろと興味深い話も聞けて、面白かった。大連にいる間に今度は一緒に水餃子を食いに行くことになるかも。
 と、まあ、昨日はこんな一日だった。