from Tokyo Ⅱ

AYA AyA... AYA AYA... aya aya...


女が叫ぶ。歌うような、訴えるような、祈るような声で。
それは僕の記憶を刺激する、耳の奥の、鼓膜をつつくような繊細さで。
遠い、それはあまりにも遠くなってしまった言葉。あまりにも遠い
しかし、期限は切れていない。
それははじまり、すべての出会いと同じように。
そう、僕はふたたび出会う。かつて出会ったように。かつてとは違う仕方で。


「どう?」
ケータイの液晶画面を見せながら青年は言った。いや、言ったように思えた。言葉はわからないが、理解はできる。僕は興奮して言う。
「これがそうなの?」
青年はうなずく。
「そうだよ」
女が儀礼をささげ、兵士になっていく。男が儀礼をささげ、兵士になっていく。兵士は兵士にはならない。兵士は、兵士だからだ。
兵士は銃を撃ち放つ。兵士は車を爆破する。兵士は森を駆け抜ける。兵士は仮面をかぶる。兵士は女を愛する。兵士は男を愛する。兵士は森を愛する。兵士は、兵士は、兵士は……。


さあ、歩こう。青く彩られた、この地を。生命あふれる、この地を。寒さが過ぎ去り、訪れた春の暑い日差し。汗は、頬を伝い、不快。不快。不快。


  アヤ、アヤ、アヤ、アヤ、アヤ、アヤ、アヤ、、アヤ……


そう、猫が傷んだ。いたんだ。真っ白い猫だった。春先の暖かい日差しの中、僕のあとをずっとついてきて。僕と彼女はじゃれあった、おたがい、うんざりだったから。そうして、満たされない欲求を欲求して、慰めあった。お互い相手を恐れながら。僕らはキスをした。誰にもはばかりなく。誰にも、いなかったから。いなかったはずだから。いなかったはずだったから。いなかったら、いなかったのに、いないはずだったら、どうしよう?
でも、僕は旅の途中だったから。いなかったはずだから。彼女から、旅を続けた。


さあ、歩こう。青く彩られた、この地を。生命あふれる、この地を。
僕の旅は終わらない。世界がこんなに美しいから。世界がこんなに輝いているから。


  ハローーー。


男がそう叫んだ。遠い、東洋人に向かって。
僕は答えようとする


  ハロ……


男は抱えている。白い何かを。白い、しろい、白い、白い、白い、白、白い、猫を……。
男は手を振る。


  ハローーー。


それは始まりの言葉。そして、終わりの言葉。



  男は、手をはなした